年商100億円企業が第二創業期の今向き合う、社会的責任と経済的利益の両立。そして2つの具体戦略
2003年に創業し、15年後の2018年には年商106億円に到達したファイブグループ。その頃から「社会に対しての価値を考えていこう」と社内で会話されるようになりました。
「良いお店をつくり続ける」その先を、視座を上げて考える必要がある──。
そう話すのはファイブグループ全体の経営戦略を担う、執行役員経営企画室室長の山﨑大輔(やまさき・だいすけ)。
今回は、ファイブグループの経営戦略の全体像について山﨑に話を聞いていきます。
社会的価値と経済価値を両立させる
──2020年1月に会社として理念をアップデートしました。具体的に今後目指すことを教えてください。
一言でいうと、これからは自分たちの店舗のことだけではなく、地域や社会との関りにも目を向けていきます。
お店をつくり、そのお店のなかで人と人とがつながっていく。働くスタッフとお客様、取引先の業者さんと楽しく仕事をすることはそのままに、より社会を意識したものになったのです。
お店のなかの「楽しさ」だけでなく、「お店の外にある地域や社会にも、楽しさを通したつながりをつくっていく」という方針です。
また、理念をアップデートした背景には、業界構造も関係しています。
飲食業界は25兆円とも言われるマーケットですが、個人店や中小企業が多いことが特徴。業界大手TOP10の売上高を合わせても、業界全体の1割程度にとどまります。
そのなかでファイブグループは「21世紀を代表する飲食カンパニー」を目指しています。売上規模だけでなく独自のポジションを取るためには、社会に対しどのような役割を果たすのかを明確にしていく必要があるのです。
──どのようにして、社会に対して果たす役割を決めたのでしょうか?
経営戦略を見直す際に、お客様アンケートを取りました(2020年2月実施の弊社お客様向けアンケートより集計)。
そこで見えてきたのは、飲食業界への期待は「飲食」についてだけではないということ。人とのつながりや、コミュニティとしての役割、そういったお客様の期待があることがわかりました。
そこでファイブグループは、より地域や社会に広がっていく方向性を打ち出したのです。
なぜなら私たちは、もともと「人を大切にする」ことで成長してきた企業なので、顧客や地域とのつながりに強みを持っていたからです。
──具体的な取り組みはありますか?
神奈川県藤沢市の「居酒屋 大悟」で実施している「子ども食堂」は、わかりやすい例です。
これは、ご飯を一人で食べているお子さんや、子育てについて相談できる人がいない地域の人がいたら「お金は気にせずうちでご飯を食べていきなよ」という取り組みです。
結果、普段居酒屋に行かない人たちでも「食べる」という共通の目的のもとお店に集まり、地域のつながりを生んでいます。
このような既存事業の枠を超えた活動は、一見すると社会貢献活動(CSR)と映るかもしれませんが、少し違っています。
社会的責任と経済的利益を両立するCSV経営(Creating Shared Value)、つまり企業が行う事業と社会の間に良い関係を築くことを目的としています。
成熟期を打破する2つの戦略
──「人を大切にする」ことで競争優位性を保ってきたファイブグループですが、これまでとこれからで、どう変わるのでしょうか?
私たちはこれまで、お客様が楽しんでくれる「良いお店をつくる」ことにこだわってきました。もちろんそれは事業の核(コア)なので、これからも大切にすることです。
培ってきた知識や経験は、店舗運営の勝ちパターンとして仕組み化されてきました。
一方で、それが課題になる場面も出てきました。急激な会社の成長にあわせて仕組み化を推し進めてきた結果、個々のクリエイティビティを発揮する機会が以前よりも少なくなってしまったのです。
──事業やサービスが成長してきたからこその弊害ということですね。
一番大きな問題は、企業の成長期に入ってきたスタッフと、これから入るスタッフとの間でギャップが生まれたことです。
会社としては「過去のやり方を踏襲する必要はないよ」と伝えています。なぜなら、毎日お客様と接するなかでサービスとして対応できる幅はいくらでも広げられるからです。
でも後から入ってきたスタッフからすると、「従来のやり方に疑問を持ち新しいことを生み出そう」とはなかなか思えないわけです。
その結果、「お客様に向き合い、自分で考えて動く」という重要な働きがいの1つが失われます。また放っておくと、スタッフの定着率の減少にもつながり兼ねません。
──その課題をクリアするためにどういった対策が求められますか?
解決策として、2つの戦略がすでに動いています。
1つめは会社全体として『常連率』を経営の最重要指標へと掲げることです。
『常連率』とは、お客様に価値あるサービスを提供した結果得られる成果です。これを全ての部門の共通指標にすることで、スタッフ全員の「共通の目的」がつくり出され、既存スタッフ、新入スタッフにおける考え方の溝が埋まると考えます。
これはつまり、先ほどの「お店の外にある地域や社会にも、楽しさを通したつながりをつくっていく」ことをブレイクダウンし、抽象的な表現のままではなく、
の2点に絞って伝えることです。なぜなら、現場で働いているスタッフにとって、一番近い社会は「お客様」だから。
そうすることで、スタッフ一人ひとりが経営戦略を行動で示すことができます。
──もう1つの解決策とは何でしょうか?
2つめは、一言でいうと「人事評価基準」です。
具体的には、上手に焼き鳥を焼けることや、ドリンクを早くつくれるというオペレーション部分だけでスタッフを評価しません。
もちろんスキルは重要ですが、「いかにお客様と向き合っているか」を評価する仕組みも導入しています。
この新しい「人事評価基準」と、先ほどの経営指標である「常連率」を一貫させることが、私たちの理念実現に大きく影響してくるのです。
また、経営陣が注目している重要KPIにも、この要素は含まれています。
経営上の重要KPIは、一般的には「売上」を設定すると思います。しかし私たちは、各ブランドごとに定めたお客様からの支持率を数値化し、店舗目標として落とし込んでいます。
具体的には、LINEのお友達登録やオリジナルカードの利用者数などです。
言葉だけで「お客様と向き合え」と言うのではなく、給与体系や研修に連動させていくことでお客様と向き合える仕組みをつくり、経営から現場までを一貫させています。
戦略を描く立場にある“個人”の想い
──経営企画室の室長として、何を大切にしながら戦略を描いているのでしょうか?
経営戦略の起点は「社長」からスタートします。会社がどこへ向かうのか、右なのか左なのか。最終的にそれを決めるのは社長です。
しかし逆を言えば、社長はそれを「考える」までが仕事。そこから事業を動かし、制度を変え、浸透させていくのが私の役割です。
「“楽しい”でつながる世界をつくる」と打ち出しても、それをそのままにしておけば「今までのビジネスと何が違うんですか? 何が変わるんですか?」となってしまう。
飲食店の基本的な仕事は料理や飲みものをつくり、接客し、提供することです。
仮に「“楽しい”で地域貢献がしたくて入社しました」と理念に共感したスタッフが入ってきたとしても、現場では「とりあえずビールの注ぎ方を覚えてね!」となってしまう。
そうすると期待値と大きなギャップが生まれることは目に見えています。
だからこそ、地域や社会とどう接点をつくっていくのかというストーリーを経営層がしっかりと描き、お客様や働くスタッフに認識してもらわなくてはいけません。
これを私は「文脈をつくる」と表現していて、私の一番重要な仕事だと思っています。
──最後に、山﨑さん “個人” としての想いを聞かせてください。
飲食業界というのはどうしても「飲みものや料理の提供」だけだと認識されがちです。
もちろんお客様のために一生懸命やっていくことが本質なので、それは大前提です。
ですがその先には、お客様や地域との関係性づくりがあり、さらには集合体となる「ブランドづくり」や「ブランドマネジメント」があります。
そして、「“楽しい”でつながる世界をつくる」を実現させていくためには、緻密なマーケティング戦略や商品企画、出店戦略を構築し、より地域に根差した店舗を展開していくことが重要です。
加えて、それらを支える経理や財務といったバックオフィスも強くしていかなければなりません。
そういう幹となる部分の話を、もっともっとしていけたらいいなと思っています。
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